「ポーター(PORTER)」などが人気の、老舗カバンメーカー株式会社吉田(吉田カバン)。※土に口の「吉」
「ポーターのバッグってセールで見かけないし、なぜ高いのだろう?」
その理由が知りたくて手に取った、3代目社長吉田輝幸氏の著書『吉田基準』(2015年出版)。長年気になっていた「メイド・イン・ジャパン」にこだわり続ける理由も知ることができました。
以下、個人的に印象に残った部分のまとめです。
- 「日本の職人を絶やしたくない」という創業者の強い思い
- 企画から縫製、出荷まですべての工程を日本国内で行う
- 吉田カバンの「多品種少量生産」は海外工場では難しい
- 作る側も買う側も幸せにならない値引きはしない
- 広告宣伝もしない。広告よりも製品で勝負
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吉田カバンが「日本製」にこだわる理由
海外生産する企業が多い中、吉田カバンはなぜ、日本製にこだわるのか?
その答えは、カバン職人であった創業者の日本の職人に対する強い思いにありました。
「職人は宝」創業者・吉田吉蔵氏の強い思い
絶対に日本の職人を絶やさんでくれ
株式会社吉田の創業者、吉田吉藏(きちぞう)氏(1906-1994)の言葉です。カバン職人であった吉蔵氏にとって、職人は宝でありました。
吉田カバンの社員は必ず「職人さん」とさんづけで呼びます。仕事を依頼するほうが上だと勘違いしない。
カバン作りは熟練の職人に支えられて成り立つ仕事ということを新人からベテラン社員まで徹底しているといいます。
企画から縫製まですべての工程を日本国内で
アパレル業界では、最後の工程さえ国内で行われていれば「日本製」と表記ができますが、吉田カバンは創業当時から企画から縫製まですべての商品を日本国内で行っています。
自社工場を持たない吉田カバンは、全国48カ所(2015年当時)の工房に属する熟練職人の方々と二人三脚で数々の製品を生み出しているのです。
海外生産は「多品種少量生産」に不向き
「ポーター(PORTER)」や「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」など、多くの自社ブランドを抱える吉田カバン。
リュックやショルダーバッグ、トートバッグなどカバン類をはじめ、財布やポーチなど小物も充実しています。まさに多品種。地方の伝統素材とコラボした限定品など、最初から販売数を決めて生産するアイテムも少なくありません。
そのため、同じ製品の大量生産を得意とする海外工場での生産方法は、吉田カバンの「多品種少量生産」には不向きなのです。
修理依頼はその商品を作った工房へ
吉田カバンは「PORTER SHOP」および「正規取扱店(DEALER)」で自社商品の修理を受け付けています。(※製品の状態によっては修理ができない場合もあります)
商品を調べれば、どこの工房で作られたかわかる仕組みになっていて、原則その商品を製造した工房に修理を依頼するそうです。
修理に出すより、新しいバッグを買った方が安いかもしれませんが、長年使用したバッグを製作した工房(職人さん)に修理してもらえるのは購入者にとって嬉しいですね。
なぜ、吉田カバンはセールをしないのか
『吉田基準』の中で、吉田カバンが値引きをしない理由を述べています。
定価で購入したお客さまに失礼である
ごくまれに生産終了となった商品の価格下げ(期間限定)を除き、原則、値引きをしないそうです。
もし、小売店の判断で商品を値下げしていたことを知った時は、クレームを入れるのではなく、商品を引き揚げる措置を取る場合もあるのだとか。
その理由は、定価で購入したお客さまに失礼であるということ。
カバンに限らず、定価で買ったものがセールで安くなっていたら気持ちの良いものではありませんよね。
ブランドイメージが崩れる
作り手が誰も幸せにならない値引きはしない
値引きをすればブランドイメージは崩れるし、当然利益も減ります。
その企業姿勢が、長きにわたり吉田カバンの品質を維持し、今も根強い支持を得ているのだろうなと妙に納得しました。
個人的に意外だったのが、吉田カバンはテレビ、新聞、雑誌、インターネットに広告を出していないこと。
もともと吉蔵氏は広告を出すことに否定的で、「広告にお金を使うのなら、研究費に回してより品質の良いカバンを作りたい」と話していたとか。
職人の工賃と、材料費や運送費などの諸経費、そして一定の利益が乗った販売価格。
広告宣伝費は乗っておらず、まさに製品そのものの価値で勝負しているといえます。
タンカー3WAYブリーフケースが月9ドラマで人気に
今ではPORTERの代名詞といわれるほど人気の「タンカー」シリーズ。
あの光沢のある中綿入りのナイロン生地を見れば、すぐに「PORTERのタンカー」と連想してしまうほど(私だけでしょうか?)ですが、もともとは米軍のフライトジャケット「MA-1」をモチーフにした素材。
「服」の生地を「バッグ」の生地に使うことに、タンカーの開発当初から製作に携わっている職人の方はとても驚いたそうです。
1983年の発売当初から売れた商品ではなく、一定の層に支持されるも、80年後半には生産数が減少。
しかし、90年代半ばに裏原宿ファッション、97年に放送された月9ドラマで、主人公がタンカーの3WAYブリーフケースを使用したことから人気に火がつきました。
ドラマ放送当時も広告宣伝はしていなかったので、「この大ブレイクは意図したことではなかった」といいます。
おわりに
一針入魂
『吉田基準』読了後、愛用のタンカーショルダーバッグを手元に引き寄せて、ミシンの縫い目をまじまじと眺めてしまいました。
吉田カバンの基本理念は「一針入魂」。その言葉を知ってからか、吉田カバンの製品には魂が宿っているような気がして、モノなのにうっすら人間味を感じてしまうようになりました。
不思議と、工房で職人さんがひと針ひと針、丁寧にミシンをかけている姿が目に浮かんでくるのです。
タンカーの開発当時から関わり、商品を作られている工房の職人さんのページがとくに印象深く、「もしかしたら、自分が持っているこのタンカーもこの職人さんが製作されたものかも。そうだったら嬉しいな」なんて思いながら読みました。
この本の内容を通して、吉田カバンは良い意味で「お客様」あっての企業というより、「職人(作り手)」あっての企業という印象を受けました。
従業員として働いている側としては、こういう企業姿勢のほうが幸せかもしれませんね。
以上、吉田カバンのモノづくりに対するこだわりがギュッと詰まった一冊でした。